古田雄介

生前準備の有効期限を切らさないコツ

せっかく頑張って生前準備しても、その後に管理方法や資産状況が変わっていったら、段々意味をなさなくなっていきます。 ましてデジタル資産は変化が激しい特性もあります。 何年も楽に維持させるためのコツを考えていきましょう。

デジタル資産は基本的に短命

これまでの工程をひと通り行えば、デジタル資産における最大限の生前準備は完了したといえます。 しかし、それは現時点での最大限です。 生前準備は短距離走ではなく長距離走。一時の100%ではなく長期的に80%程度を維持することが肝心になります。

ここで注意したいのは、デジタル資産は概して他の資産よりも変化が早いという特性です。 スマートフォンは数年で乗り換えるのが一般的ですし、ネットで流行しているサービスは日進月歩で変化します。 また、HDDやSSDも5年前後で故障するケースが多く、紙焼きの写真や手紙のように、何もせずに数十年間放置して閲覧可能な状態を保つというのは非常に難しいです。 デジタルデータ自体は無劣化でも、容れ物自体の寿命は案外短めだったりします。

まして、「「デジタル遺品」とは何だろう?」のコラムで触れたとおりデジタル遺品周りのサポートはこれから整備されていく状態です。 キャッシュレス化やIoT化によってデジタル資産の重要性が加速していくなかで、遺品としてのデジタル環境も激しく変わっていくでしょう。

総合的に考えると、今回作り上げたデジタル周りの生前準備は、3年後にはおそらく半分以上が無意味なものになっているでしょう。 そうならないために、効率的にメンテナンスする必要があります。


手間をかけずに1年に1回の更新を

コツは2つあります。

ひとつは託す用のデジタル資産リストを1年に1回更新することです。 理想をいえば、新サービスを導入したり新機種に乗り換えたりしたときにこまめに更新するほうがいいですが、リストの鮮度維持が重荷になっては長続きしません。

誕生日や年末年始、最初の作成日など、自分なりの見直しタイミングを決めて、その日にササッと更新して、紙にしたものも新調するように心がけましょう。 リストの更新は10分程度で十分です。あまり時間をかけて詳細を詰めてもどうせ変化しますから。

実際、デジタル遺品研究会ルクシーに届いた相談の8割が「スマートフォンのロックが解除できない」ということは 「「デジタル遺品」とは何だろう?」のコラムでお伝えしたとおりです。 逆にいえば、スマートフォンが開けさえすれば、後は多少の苦労の差はあれどどうにかなっているともいえます。

最初の生前整理で要所はつかめているわけですから、多少の粗は家族にお願いするくらいの構えで望んでもバチはあたらないでしょう。 とにかく何年後も継続することが大切です。

私はお盆前にA4用紙に託す情報をまとめて、預金通帳用の引き出しに入れるという習慣を5年前から続けています。 『はじめてのエンディングノート2』を印刷して保管するのも効果的でしょう。

もうひとつは、普段からデジタル周りを体系的に利用する癖をつけることです。 新しいアプリをインストールしても、どこに置いたか忘れてしまって、結局使わないという知人がいます。 それを繰り替えしてしまうと、せっかく脳内で整理できた「支払い契約」「思い出関連」「秘密にしたいもの」といった棲み分けがすぐに乱雑になってしまいます。

元気に生きている間、デジタル環境は自分の思いのままになる自分だけの空間かもしれません。 しかし、万が一の際は家族が踏み込んでくる可能性が十分にあります。 それを頭の片隅において日頃から利用するように心がけるのが、意外と本質的に一番重要なことなのかもしれません。



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