デジタル遺品を研究するフリー記者 古田雄介

「デジタル遺品」とは何だろう?

「デジタル遺品」という言葉を耳にしたことはありませんか。近々注目を集めている遺品のひとつで、何をどうすればいいのか悩んでいる人も増えています。 対処法を知るにはまずはデジタル遺品について知る必要があります。

デジタル遺品は、パソコンの中にもインターネット上にもある

デジタル遺品とは、その名の通り、デジタルの状態で残された遺品を指します。 パソコンやスマートフォンに保存されている写真やメール、アプリ、年賀状の住所録などはもちろん該当します。 手持ちの機器の中ではなく、インターネット上にあるもの・・・SNSの日記やLINEのメッセージ、ネット銀行に預けている貯金なども含みます。

所在がバラバラで、何だかとりとめもないように感じてしまうかもしれません。 ただ、デジタル遺品の定義は「デジタル環境を通してしか実態が把握できない遺品」です。 パソコンなりスマートフォンなりのデジタル環境を使って、表示したり利用したりするものと捉えると共通点が見えてこないでしょうか?

パソコンやスマートフォン自体も、物質的な普通の遺品になりますが、 「持ち主がどんなふうに使って何を残したか」を把握するには電源を入れてデジタル環境を起動しなければなりません。 そういう意味ではデジタル遺品の範疇といえます。


デジタル遺品の対応策は未整備の状態

これらのデジタル遺品ですが、本質的なところは従来の遺品と何ら変わりがありません。 しかし、現実的には取り扱いが独特で、手の打ち方にコツがいることも確かです。

その原因は2つあります。

ひとつは、デジタルだからこその問題です。デジタルデータの多くは無劣化でコピーできる一方で、ゴミを残さず消滅することもあります。 パソコンで削除したと思ったデータと全く同じものがインターネット上で見つかったり、 逆に残そうと思っていたのに誤って端末を初期化(工場出荷時の状態に戻すこと)してしまったりということはよくあります。

また、セキュリティの鉄壁さもデジタル特有といえます。 ロックがかかったスマートフォンは、持ち主が設定したパスワードを入力しないとどうやっても開けないことがよくあります。 ポケットに入るサイズの機器なのに、銀行の地下金庫ばりの厳重さを備えているのです。 孤独死の現場では玄関ドアの鍵を壊して室内に入るといったことがよくあるそうですが、そうした緊急措置ができません。

私は2016年から2019年の年初まで「一般社団法人デジタル遺品研究会ルクシー」という組織で代表を務めていましたが、 そこに届くデジタル遺品に関する相談の8割は、スマートフォンのロックが開けないというものでした。 スマートフォンは故人のデジタル遺品を調べる入り口になることが多いですが、その入り口のドアがどうにも開けられず困っているわけです。 当研究会や最新技術を持つデータ復旧会社でも解決できないケースは少なくありません。

もうひとつの原因は、デジタル遺品をとりまく環境がまだ未整備だということです。 自動車について考えてみましょう。 故人の自動車について、相続方法や保険などについてきちんと対応できる人はごく一握りだと思います。 相続の場面で問題視される事例はあまり耳にしません。 それは自動車を売ったディーラーなどが仲介してくれるからではないでしょうか。 ディーラーがしかるべき手続きをサポートし、必要とあれば専門家につないでくれたりすることで、 自動車に詳しくない遺族であっても大きな困り事にならないのだと思います。

残念ながら、デジタル遺品に関しては、そうした間を取り持つ役割の人はいません。 メーカーは機器自体の保証はしてくれても、中身はノータッチです。 通信キャリアも対応してくれるのは契約の処理と端末の初期化だけです。 インターネットサービスのなかには、利用者の没後の措置についてルールを設けていないところも多いのが実情です。 デジタルやIT業界で死後対応のガイドラインが整うのはもう少し先のことになるでしょう。

そうなると、重要になってくるのがデジタル資産を持っている本人による事前準備=終活となります。 デジタル資産の現状把握と整理は、 要点を押さえて対応すれば毎年10分程度の時間で十分な手が打てるはずです。 その要点をこのコラムで解説していきますので、どうぞお時間のあるときにお読みください。



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