『筆まめVer.28限定』スペシャル年賀状デザイン “日本三大友禅” とは?
都会的でモダンな “東京手描友禅” が生まれる工房へ
2017年9月発売の『筆まめVer.28』は、「日本三大友禅」の絵柄をデザインに取り入れたスペシャル年賀状が使えるのが特徴。京都・金沢・東京と日本三大友禅の産地を訪ね歩き、前回は東京手描友禅の作家である岩間奨さんに東京での友禅染の歴史や特徴について話を伺った。今回は岩間さんの工房を訪ね、東京手描友禅の制作工程について、現場からレポートする。
小さな工房からさまざまな友禅作品が生み出される
ご自宅に工房を構えている岩間さん。一見普通の住居だが、中に入ると奥には筆などの道具や作品がところ狭しと並ぶアトリエが。ここで注文に応じて、下絵から糊置き、友禅挿し(彩色)、仕上げまでの工程(時には地染めまでも)を行う。東京手描友禅では、糸目糊を置くいわゆる「手描友禅」のほか、糊を置かない「無線」、「蝋纈(ろうけつ)」の技法が伝統的工芸品に指定されているが、岩間さんはこの3種類すべてを使い分ける。
「親父が糊置き職人で跡を継ぐ予定だったんだけど、彩色の工房を見学したらその華やかさに惹かれちゃって。師匠のところに住み込んで彩色を学びました。」
当初の東京手描友禅の工芸士の試験は、ほとんど手描部門であったそう。しかし、事業所の規模の縮小に伴い、一人の職人が複数の工程を手掛けることが多くなった。「今は工芸士の試験も『総合』といって、下絵から仕上げまでの一貫した工程で受けることが多くなっています。」
実際に作業の様子を見せていただいた。岩間さんは、専門の職人に任せる作家も多い糊置きの工程も自身で行う。筒紙にもち米を原料とした真糊を詰めて、ケーキのデコレーションの要領で先金から糊を細く絞り出す。下絵をなぞりながら糊を置くのは思いのほか力が必要なうえ、加減が難しい。糊で引いた線が作品のできを左右する大切な作業だ。「昔は自分が糊を引くと思っていなかったけど、親父が生きているうちに糊のこともいろいろ聞いておけばよかった」と岩間さん。
緻密な手作業の積み重ねでオンリーワンの1枚を作る
友禅挿し(彩色)の工程では、作家の好みによって使いやすい筆や刷毛を選んで使用するが、岩間さんは基本的に「三分刷毛」を用いる。細かい部分を彩色する刷毛は、毛先が揃っていないと使い物にならない。「最近は質の良い刷毛が少なくなっていますね」と岩間さん。ほかにも下絵用の筆や、筆入れにしている江戸指物の箸箱など、大切な道具は、自然と質の高い伝統的工芸品が集まる。
ある程度にじみが出るので、その広がりも計算しながら刷毛を動かして色を挿す。「生地の裏まで色を通さないといけないので、できるだけ刷毛を動かす回数を多くします。弟子時分に先輩から『そんなやり方じゃ駄目だ』と注意されて、『そんなに違う訳ないじゃん』なんて思ったけど、仕上がりを見ると刷毛数が少ないとやはり違います。」
扇絵師の宮崎友禅斎が広めた友禅染。かつて彩色には日本画の顔料が使用されていた(現在は化学染料が主流)。今でも仕上げに施す金箔などの工程で、日本画の技法が生きている。京友禅では仕上げに刺繍や箔などの装飾を施すことが多く、加賀友禅ではほとんど施さないが、東京手描友禅はその中間。作品によって刺繍や箔を取り入れるそうだ。
金の純度により赤みのある金箔、青みの強い金箔、アルミを用いる銀箔、これらを作品によって使い分ける。「お客さんと会って、その人の雰囲気や背の高さに合わせて柄の内容や位置を決める。直接会うことは昔より少なくなったけど、世間話をしながらそんなやり取りをするのがやはり楽しいですね」と岩間さん。さまざまな技法を用いて、その人だけの特別な1枚を作る。手作りならではの醍醐味だ。
文/クエストルーム
バックナンバー
[第5回]“東京手描友禅” はどのようにして伝わり、広まったのか?
[第3回]“加賀友禅らしさ” とは? その歴史や特徴について聞く
[第2回]京友禅作家・黒島敏さんの工房を訪問