『筆まめVer.28限定』スペシャル年賀状デザイン “日本三大友禅” とは?
自然を写し込む “加賀友禅” が生まれる場所
2017年9月発売の『筆まめVer.28』は、「日本三大友禅」の絵柄をデザインに取り入れたスペシャル年賀状が使えるのが特徴。今回はそのデザインのルーツを探る旅の第4回。加賀友禅の成り立ちや特徴についてお話を伺った前回に引き続き、今回は金沢市郊外にある加賀友禅染色協同組合「加賀友禅ながし館」や友禅作家の工房など、加賀友禅の制作現場からお届け。伝統を守る匠の技に惚れ惚れするとともに、近代化・合理化された設備に驚き、目から鱗の連続だった潜入レポートをどうぞ。
時代の流れとともに加賀友禅の世界でも進む近代化
「水の芸術」と呼ばれる友禅染。金沢でもかつては浅野川や犀川で友禅流しを行う光景があちこちで見られたという。しかし、川の水質の悪化と季節による水温の変化に伴う作業効率の低下という問題が生じた。そこで染色関係者が協同組合を作り、1970(昭和45)年に加賀友禅染色団地(現在は加賀友禅染色協同組合)を建設。地下水を利用した人工の川を作ることにより、水温・水質ともに安定した環境のもとで友禅流しを行い、効率良く作業ができるようになった。
友禅の制作工程は、三大友禅でさほど違いはなく、大きくは、
図案作成 → 下絵 → 糊置き → 彩色 → 下蒸し → 中埋め → 地染め → 本蒸し → 水洗い(友禅流し)→ 乾燥 → 湯のし
という流れで行われる(糊の種類などによって一部順番は前後する)。
今回訪れた加賀友禅染色協同組合「加賀友禅ながし館」では、上記のうち「本蒸し」から「湯のし」までの工程を行う。それまで業者が個々で行っていた作業を共同で行うことにより、家内工業からの脱却や後継者の育成を図っている。
さて、具体的にはどのような作業が行われているのだろうか。まず「本蒸し」だが、湯気が立ちのぼる大きな蒸し箱の中に生地を入れて、100℃で60分ほど蒸す。これは地染めの色を生地に定着させるための工程だ。
次に水洗い(友禅流し)。プールのような人工の川に生地を浸け、水を1時間出しっぱなしにして糊をふやかす。その後、タワシで軽くこすり糊や余分な染料を洗い流すと、糊で伏せられていた部分から鮮やかな絵柄が現れる。
そして、しばらく乾燥させてから、蒸気アイロンの要領で「湯のし」をして生地を伸ばす。加賀友禅染色協同組合「加賀友禅ながし館」で手掛ける工程はここまで。さらに仕上げや仕立てを行い、反物がようやく完成する。
作家の「染めの心」が息づく加賀友禅
このように現在の加賀友禅は、一部が近代化・合理化されている。しかし、職人さんの熟練した手仕事によって支えられていることに変わりはない。
友禅作家の森田耕三さんも加賀友禅の伝統の技を守るひとり。兼六園近くの加賀友禅会館内にある工房にお邪魔すると、森田さんは打掛の彩色を行っていた。牡丹などの柄を描いた糊の線の内側を、手早い筆さばきで彩色していく。伸子(しんし)という竹の棒で生地をピンと張り、下から電熱器を当てて乾かしながら色を挿す。
筆選びや伸子の張り方などは、作家によって異なる。一般的には、外側から内側に向かってぼかす「外ぼかし」が主流とされる加賀友禅だが、「内ぼかしの方が好きなんだよね」と森田さん。伝統に裏打ちされた技法を駆使しながら、作家によって幅広い個性を表現できるのが友禅染の良さだろう。
加賀染振興協会には現在約160名の加賀友禅作家が落款登録されており、図案作成、下絵、彩色などの作業を行う(糊置きは専門の職人が行うことが多い)。7年以上修業を積み、協会員の審査に合格してはじめて、落款を登録して加賀友禅作家と名乗れるという。
ゆるやかな分業制と連携によって支えられた加賀友禅。全工程を手作業で行うため大量生産はできない。だからこそ、作り手の「染めの心」が息づく、他にない一点に出合う喜びはひとしおだ。
なお、今回『筆まめVer.28』の企画で使用する加賀友禅の柄は、加賀友禅の卸販売を行う小川株式会社さんで選ばせていただいた。どのデザインも素晴らしく、迷いに迷ってセレクトした柄の詳細については、後日筆まめネット「筆まめでぃあ」にアップするのでお見逃しなく。
文/クエストルーム
バックナンバー
[第3回]“加賀友禅らしさ” とは? その歴史や特徴について聞く
[第2回]京友禅作家・黒島敏さんの工房を訪問